内田輪店

モーターサイクル、特にオフロードバイクが大好物です。 趣味と物欲にまみれた日々を、若干反省しながら綴っていきます。(苦笑)

2016北海道ツーリング【8】

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暖気もそこそこ、速度を控えめに愛機と走り始める。
昨夜川面を照らしていた提灯の灯りも消え、ひっそりと静まり返った早朝の温泉街は、どことなく祭りの後のような寂しさだ。

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740分出港の津軽海峡フェリーに乗るために、6時頃にはチェックアウトを済ませていた。
夏のこの時期は乗船開始が特に早い。車輛甲板が満杯となるため、定時運行を見越して少しでも早めに積み込んでおきたい、という思惑だろう。
特に最初に乗船となるバイクは、ある程度の台数が揃い次第、乗船開始が前倒される傾向があるように思う。その分、船室へも一番に入ることができるので、これはこれで悪い気はしない。

今回は船出の瞬間を船室で迎えた。
いつもなら離れていく北の大地を名残惜しむところだが、今年は大間ではなく、青森港へと向かう3時間40分ほどの船旅だ。これならもう一眠りできる。何のことはない、また来年も来ればいいのだ。スピーカーから流れる『ドラ』の音を、夢の中で聞いた気がする。

函館と青森を結ぶ青函航路は、自分にとって特別な思いを持つ。
高校3年の夏、翌春の青函トンネル開業を機に廃止となる青函連絡船を目当てに、受験勉強もそこそこに津軽海峡を何往復もしたことを思い出す。
当時カメラマンを志していた自分の写真系の大学受験を許可するために、両親は「何でもいい。写真コンテストで入賞してこい」という条件を課した。
一応カメラマンの端くれとなることが出来たのも、JR北海道のおかげだ。
 
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ゆっくり睡眠をとりぼーっとする頭を覚ましに、ホットコーヒー片手にデッキへ向かう。
すでに左前方には、靄でかすんで下北半島が見える。下船まではあと1時間くらいだろうか。随分と寝ていたようだ。
ほとんど衝撃もなく着岸したフェリーでは、俄かに乗下船デッキが慌ただしさを増していた。とはいえ、バイクの下船案内は一番最後だ。下船を急ぐ客の流れに逆らいながら、船室へ戻ってのんびりと準備を始める。旅慣れた他のライダー達も、焦るそぶりも見せずにのんびりとスマホを弄っている。
ようやくバイクの下船準備の案内放送が入り、ヘルメットを携えて車輛甲板へと下りる。空調の効いていないそこは、すでに内地の気温だ。気温だけでなく、湿度さえもが纏わりつくように感じる。
更には自家用車に乗り込んだ自己中心的なドライバーは、エアコンを効かせるためにエンジンを掛けている。ボンネットからの放射熱とラジエターファンからの熱風をひたすら浴びながら、ライダーは皆しかめっ面で淡々とパッキングを整えていた。

一台、また一台と周囲の車が捌けていく。
頭から壁に突っ込んで停めていた自分の愛機を引っ張り出し、ここでようやくエンジンに火を入れる。スロープ際にいる係員の誘導灯が、遠くから自分を呼んでいた。ようやく下船だ。
滑りやすい床と、車輛固定用に床に据え付けられたアンカーに注意しながら、微速でスロープを下っていく。岸壁の真っ白なコンクリートに照り返された太陽の光に一瞬視界を奪われながら、ようやくタイヤが地面を噛んだ。
 
ここからは東北道で南下するのだが、その前に市内のダムを2か所ほど訪ねていこうと決めていた。
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まずは国道4号に面した浅虫温泉から、少し入ったところにある『浅虫ダム』へと向かう。
ここも放水路が露出していないタイプで、一見すると湖畔にできた公園のようだ。

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そして、もう一か所が『下湯ダム』。
ここへのアクセスは、ひたすら山の中へと続く一本道だ。さっきまでの青空はどこへ行ったのか、雲が重く垂れこめてきた。これも近付きつつある台風の影響だろうか。もう少しでダムに着くというところで、ついにポツポツと降り出した。

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管理所でダムカードを貰い、雨宿りしながらスマホの天気アプリを立ち上げる。
どうやら岩手・宮城のあたりで雨雲とすれ違うことになりそうだ。それではと、レインウェアをしっかりと着込み、雨の中へと走り出した。

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ここからはひたすらに帰り道だ。
有料道路を迂回するために、青森空港の脇をかすめる。まだ昼前だというのに、タキシングライトの点された滑走路はまるで夜を迎えるかのようだ。
雨は降ったり止んだりを繰り返し、その度に青空が顔を覗かせる。一気に蒸し暑さを増す晴れ間に、ついつい雨具を脱ぎたくなるが、走り続けていれば何とか我慢できるというものだ。
 
浪岡ICから東北道に入る。
交通量は少なめだが、関東エリアのナンバープレートを付けた車が目立つ。自分と同じように、フェリーから下りてきたのだろう。
そろそろ腹が減ってきたので、遅めのランチ。花輪サービスエリアは、東北道が少しだけ立ち寄る秋田県にある。さっきまで降っていたようで、路面はフルウェットだ。とはいえ、頭上の抜けるような夏空に、たまらず雨具を脱いだ。

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ハヤシライスで腹を満たし、コーヒーを飲みながら空を眺める。
八幡平の上にかかる真っ黒な雲が、この先の道中を暗示しているように思えてならない。

再び、レインウェアに身を包んで走り出す。
降ったり止んだりを繰り返すものの、時折叩き付けるような激しさで襲ってくるゲリラ豪雨でも、アフリカツインは臆することなく矢のように進む。
以前の愛機であるGS-Aのように、ビタッと張り付くような接地感とはまた違うが、21インチのフロントホイールとは思えないほどにインフォメーションは潤沢だ。さすがはアドベンチャーカテゴリの最新鋭機、ビッグオフとはいえ当然オンロード性能も十分すぎるほどに煮詰められている。

間もなく仙台というところで、思い付きでコースを常磐道経由に変更する。
そういえばいわきから北側の新設区間を、一度も明るい時間に通ったことがなかった。時間的にはちょうどいい。富谷ジャンクションの分岐を左へ折れ、仙台北部道路仙台東部道路経由で常磐道へと向かう。

山元ICの先で福島県に入ると、徐々に景色が色を無くしていく。
これは、決して日が傾いてきただけではない。『フクイチ』での事故の影響により、徐々に生活臭が感じられないエリアに入るためだ。
日が落ちてしまえば、ただでさえ少ない街灯と相まって、人工的な灯りが少しずつ消えていく。交通量が少ないこともあって、LEDのヘッドライトが照らす先は山に挟まれた真っ黒な一本道だ。
道路を走っていてこれほど物悲しい風景も無いだろう。滅入る気持ちを置き去りにするかのように、少しだけスロットルを開けた。
 
それにしても、このアフリカツインの走りはどうだ。
ここまですでに400km近くを走っているというのに、ほとんど疲れを感じない。少しばかり尻が痛いのは仕方がないところだが、これほどの巡航性能を持つとは、驚きを通り越して感動すら覚えるほどだ。小ぶりなスクリーンとは思えないほどに、ウインドプロテクションも素晴らしい。
そしてまた、このエンジンが飽きないのだ。
軽やかに回る水冷並列2気筒エンジンは、乗り手の意思に非常に忠実だ。開ければ開けた分だけ飛ぶように走ることもできるし、抑えれば法定速度での巡行すら苦にしない。
パワーを絞り出すだけ出した、というようなカリカリのユニットでは無いのだ。このエンジン特性を実現するために、敢えて92馬力程度に抑えた、というのが正しいのだろう。

途中のサービスエリアをガスチャージのみでピットアウト。結局、茨城県守谷サービスエリアまでの600km弱を、無休憩で走り通した。
青森からたった2回の休憩でここまで来てしまった。こうなると、感動すら通り越して呆れてしまうより他にない。
 
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この先、もう雨の心配はないだろう。例え降られたとしても、自宅まではあと少しだ。
すっかり乾いたレインウェアを畳み、ゆっくりと夕飯を食べる。あと一息だからこそ、気持ちを入れ直して行こう。
守谷を出てしまえば、三郷の料金所などあっという間だ。さすがに首都高速は交通量が多いが、それでも流れは速い。
22時を過ぎて、交通情報盤に渋滞の表示は無かった。箱崎を抜けて、最短距離を走る。レインボーブリッジを渡れば、あとは湾岸線一本だ。
 

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新しい相棒と過ごす初めての夏。
少しばかりハプニングはあったものの、相性の良さを確認できた旅だった。

そして、北海道は今年も変わらず、人も土地も暖かく自分を迎えてくれた。
高で、洞爺で、札幌で、、、かけがえのない出会いがあるからこそ、自分は北の大地に魅了され続ける。今年は家族との時間も満喫できた。自分にとっての、新しい旅のスタイルの一つになるだろう。

そして、自分の中での心境の変化が一つ。
北海道に宿題を残してくることは、決して悔やむべきものではないということ。
また来年、また次回、行ける時にその続きを片付ければいいだけのことなのだ。
走り倒すのも自分のスタイルなら、今更ながら敢えて走らないのも旅なのだと気付く。

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あれこれと詰め込む必要はもう無い。北海道はいつもそこにあるのだ。
 
8/20の走行距離:845.2km、総走行距離:3,510km、使用ガソリン量:140.84L、平均燃費:24.92km/L
(おわり)