内田輪店

モーターサイクル、特にオフロードバイクが大好物です。 趣味と物欲にまみれた日々を、若干反省しながら綴っていきます。(苦笑)

2016北海道ツーリング【5】

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今朝も素晴らしい天気に恵まれた。
日高の山を見上げると、うっすらと雲が掛かっている。恐らくは山頂から見ると、あれが雲海になるのだろうか。そんなことを考えながら、コーヒー片手にテントを撤収していく。

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道を隔てたところにある『日高国際スキー場』には、すでに日高モーターサイクリストクラブの面々が準備を終えていた。昨晩のバーベキューから一転、ライディングモードに切り替わったメンバーはやはりどことなく精悍だ。
新旧織り交ざったエンデューロバイクは、もちろん全てにナンバープレートが付いている。ここはそういう土地なのだ。
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春木さんがバイクを用意してくれていた。
Husqvarnaハスクバーナ TE250。コンパクトなX-Lightエンジンを積んだ、白赤のイタリアンハスクだ。聞けば、春木さんの実兄の愛機だという。
初めて乗るバイクに少し緊張しながらも、跨ってしまえばスリムな車体に気分も逸るというものだ。

まずは裏手のスキー場に入り、つづら折れの作業道を登っていく。
中腹まで来ると、ゲレンデのキャンバーにコーステープが張り巡らされた一角がある。どうやら、本番で使用するテスト区間らしい。ウォーミングアップとばかりに、右へ左へとターンを繰り返す。朝露にしっとりと濡れた草むらにズボンの裾を濡らしながら、少し遅れながらも何とか付いていく。
そのエリアを抜けると、頂上へと続く最後のヒルクライムが待っていた。何本もの深い縦溝が刻まれたガレた登りを、春木さんに続いて登っていく。しかし、少しだけ自分のスピードが足りなかったらしい。失速してエンストした途端に、バイクの後ろへと放り出される形でひっくり返った。スロットルを開けすぎて「まくれた」わけではない。身体が遅れたためにフロント荷重が一気に抜けて、バク転したということだ。
10m近く転がり落ちて、何とか起き上がることができた。そこで初めて、これほどまでに勾配が急だったことを知る。なるほど、あのスピードでは登りきれないわけだ。心配そうに見守るメンバーの視線が少しばかり痛かったので、さっさとバイクを起こして、100mほど下ってアプローチからやり直す。借り物のバイクで2度は転べない。今度は草むらのほうにラインをとり、一気に頂上まで駆け上がった。

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眼下に日高の街を眺める、ここが北日高岳の山頂だ。
残念ながら雲海は見られなかったが、その代わり果てしなく続く夏空の青が印象的だ。3年前にもこのゲレンデヒルクライムに臨んだのだが、さすがにGS-Aでは最後のガレ場は無理と判断して手前で引き返していた。登ったものだけが見ることができるこの景色は、やはり爽快で圧巻だ。まだ走り始めて15分くらいしか経っていないが、改めてこの日高の土地に魅了されている自分がいる。

ゲレンデを下り、今度は舗装路をしばらく移動する。少し空気圧を抜いたエンデューロタイヤの接地感はさすがに心許ないが、急な加減速をしなければ良いだけの話だ。前を行く春木さんのKTMに導かれるままについていく。
道を外れると、途端にダートが始まった。フラットな砂利の浮いたグラベルから、今度は森の中へ。道を熟知している春木さんは、右へ左へと踊るように木の間を縫って走る。後ろからドタバタとついていく自分は、何とも不恰好だ。未熟な腕に苦笑いしながらも、ハスクとの対話を楽しんだ。

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鬱蒼としたウッズを抜けると、広々とした緑が一面に広がった。
日高の町営牧場だ。昨年の『HTDE』では、降り続いた雨のために地獄絵図のようになったステージのはずだが、今はすっかり爽やかな牧草地を取り戻していた。
後続のメンバーがエンジンを止めると、風の音しか聞こえない。何という、贅沢で素晴らしい時間なのだろう。恐らくは、好き勝手に走って良いという山では無いのだ。レースを通じて、この日高のトレイルを大切に守り続けているメンバーと一緒だからこそ、得られた体験なのだ。

旅の言葉に「アフリカの水を飲んだものは、アフリカに帰る」という言い伝えがある。それと同じく、一度この日高の山を走ってしまうと、恐らくはオフロードライダーならば誰もが虜になってしまうに違いない。だからこそ、皆口々に「HTDEだけは特別だ」と語る。年に一度のこのレースに照準を合わせて準備をする気持ちが、今はとてもよく理解できる。自分もいつか必ず、愛機と一緒にスタートラインにつきたいと、改めて誓う。

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ダートと舗装路を走りつなぎ、スキー場に戻ってきた。
泥にまみれたズボンとブーツは、勲章のようなものだ。普通に北海道をツーリングしているだけでは絶対に得られない体験をさせてくれた、春木さんをはじめとする日高モーターサイクリストクラブのメンバーに改めて感謝した。隣接するひだか高原荘でみんなで朝食をいただいた。ライディングの後のこの上ない贅沢だ。
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自分の腹が満たされたところで、借りたハスクをスタンドで洗車。ほんのわずかな時間だったが、今はこのバイクがとても愛おしく思えるから不思議だ。
まだ旅は始まったばかりだ。メンバーの皆に礼を述べて、日高の地を後にした。来年の夏もここに帰って来よう。きっと誰かがスキー場の駐車場に、バイクとともにいるはずだから。
 
占冠からトマムへと抜ける。そういえば、学生時代の後輩が帯広でカメラマンをしていることを思い出した。夏の間はトマムのリゾートから雲海を撮影していると聞いたことがある。懐かしくなって電話してみると、今夏はトマムの仕事はしていないのだとかで、今は自宅にいるという。ここから帯広までは70km程度。それでは、とランチの約束だけ取り付けて、もう一走りと佐幌ダムへと向かった。
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湖畔を奥へと向かう道は、途中からフラットなダートになる。キラキラと光る木漏れ日が、乾いた路面にまだら模様を作り上げていた。スタンディングのまま速度を落とし、思い切り深呼吸。マイナスイオンが頭の中まで瑞々しく行きわたる感じがした。行き止まりのダートを帰りも楽しみ、今度こそ帯広へと向かう。十勝清水から南へと続く国道38号は直線が多く、ここから帯広市街までは取り締まりのメッカ。一人だけ目立つような走りは禁物だ。ペースの速そうな地元の車の後ろについて、じわじわと先を急ぐ。

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長尾君とは、国道沿いのガソリンスタンドで待ち合わせていた。
彼が卒業して帯広に帰ってからだから、会うのは何年振りだろう。今はフリーランスのカメラマンでやっているが、なかなか大変ですよ、と昔と変わらぬ調子で話す。
豚丼と牛トロ丼以外の十勝名物があったら案内してほしい、自分からのリクエストで連れてきてもらったのが、住宅地の中にある一軒の中華料理屋だった。
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彼のおすすめは『中華チラシ』。初めて聞く名前だ。
ご飯の上に、玉ねぎ・ピーマン・きくらげ・豚肉・筍などが、玉子と炒めて載せられている。少し涼しいくらいの気温だったこともあり、熱々の丼がとてもありがたい。たっぷりの具材が、一口ごとに様々な食感を楽しませてくれる。結構なボリュームだったが、一気に平らげてしまった。

本当はもう少しゆっくり話したかったのだが、日曜にもかかわらずこれから仕事が入っているという。フリーランスに曜日は関係ないのだ。それでも、仕事前の忙しいタイミングに、時間を取ってくれた事に感謝し、がっちりと握手をして別れた。また会おう。

時間は12時半。今夜の宿は千歳にビジネスホテルを予約していた。ここから襟裳岬を経由して日高山脈を一周するルートもあるが、さすがに距離がありすぎる。とはいえ、真っ直ぐ日勝峠を越える気にもならなかった。もう少し走っていたい。折り返す形にはなるが、糠平のダムに向かうことにした。
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帯広市内から士幌へと、ほぼ真北を目指す。
国道241号、273号と走りつないで、1時間ほどで糠平湖に到着。交通量も少なく、走りやすい道だ。気持ちとしては、そのまま三国峠を越えて層雲峡を目指したいところだが、さすがに千歳に向かうのに旭川を経由するのは酔狂すぎるというものだ。やむを得ず士幌まで戻り、ここからひたすら国道274号を西へと向かう。途中、鹿追までは緩やかなアップダウンの続く16kmものロングストレートだ。いくつかの丘を越えたところで、一台の乗用車がパトカーに捕まっていた。バックミラーには、常に注意が必要ということだ。油断するべからず。

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清水町まで来たところで、どうにも雲行きが怪しい。
これから向かう日勝峠の上には、形の崩れた真っ黒な雲がかかっている。どうみても降っているとしか思えない。スクリーンにポツポツと雨粒が弾け始めたので、十勝清水のICから道東道に乗ってしまおうかとも思ったが、たまには良いかと道端でカッパを着込み、そのまま峠に向かう。途端に大粒の雨が前から吹き付けてきた。撥水効果の落ちたシールドに雨粒が滲み、前が見えづらい。登坂車線はあるのだが、この雨脚でペースを上げるのは少々危険だ。さらには、標高が上がるにつれて、あたりを霧が包み込んできた。ここは大人しく、前走車のテールライトに付いていこう。

峠のトンネルを抜けると、途端に雨脚が弱くなってきた。これから目指す西の空が明るくなっている。しばらく下ったところで、すっかり雨は上がった。雲から顔を覗かせた太陽が、濡れた路面をオレンジ色に染める。上着のファスナーを少し下げて、蒸れた空気を追い出した。このままスタンディングで走っていけば、カッパもきれいに乾いてしまうだろう。今朝までいた日高の町まで下りてくると、国道は右へと曲がる。その交差点を左に折れると、日高のスキー場だ。もう一度、日高MCの皆に会っていこうかとも考えたが、彼らはHTDEの準備で忙しいだろう。少しだけ後ろ髪を引かれながら、右のウインカーを点けた。

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昨日と同じ、夕張の麓にある紅葉山のセイコーマートで小休止。
すっかり乾いたカッパを畳むと、途端に身軽になった。ここから千歳まで市街地を抜けていくにつれて、交通量も増えていく。それでも信号が少ないので、ペースはそれなりだ。
雨上がりの澄んだ空が、オレンジから紫へと色を変えていく。バスの後ろで排ガスを浴びながら、とても充実した一日を振り返る。今日はよく走ったな。愛機のタンクにガソリンを満たす。目指す宿はもうすぐだ。
 
8/14の走行距離:441.4km、宿:千歳 ビジネスホテルホーリン】
(つづく)