内田輪店

モーターサイクル、特にオフロードバイクが大好物です。 趣味と物欲にまみれた日々を、若干反省しながら綴っていきます。(苦笑)

2014北海道ツーリング【9・終】

◆8月16日(土)

天気予報は下り坂。恐らく東北道のどこかで、雨雲とすれ違うことになるだろう。しかしながら、ツーリングの中盤以降は一切雨の心配をせずに済んだ。ところどころで肌寒いほどに冷え込んだものの、まずは上出来というべきか。おかげで最高のツーリングが出来た。キャンプ道具の出番が少なかったのは、単に自分が暗くなるまで走りすぎただけだ。
昨晩『ラッキーピエロ』で食べ過ぎたために、全く腹が減っていない。とはいえ、このままフェリーターミナルへ直行するのはあまりに惜しい。まだ少し時間があるので、函館駅前の朝市に立ち寄ることにした。
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まだ7時を過ぎたばかりだというのに、この人出は凄い。
満腹とはいえ、やはり活気のある食事処には、ついついひかれてしまうものだ。しかし、残念ながら今は本当に入らない。雰囲気だけを堪能して、その場を後にした。ここから函館港フェリーターミナルまでは10分ほど。途中のセイコーマートに立ち寄り、コーヒーとお握りを買った。

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フェリーターミナルの入口で、バイクに乗ったまま自動チェックイン機で発券してもらう。
行先は青森港ではない。『大間港』だ。本州最北にある下北半島へは、ここ4年間で3回目の訪問となる。昨年、時間の都合で逃した場所があり、今年はどうしてもそこを訪ねておきたかった。北海道から離れる寂しさと、下北で待つ景色への期待が入り混じるが、確かなことは「旅はまだ終わらない」ということ。「まだ、あと900kmも走れる」のだ。

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帰りのフェリーは『大函丸』、これも比較的新しい船だ。
行きのフェリーといい、幸運にも今回は立て続けに新造船にあたる。車両甲板のスロープが下がると、自分とGS-Aは一番最初の乗船となる。バイクを降り、デッキへと上がる。長声一発、いよいよ出港だ。大きな船体が滑るように離岸していく。またの機会までのお別れだ。
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ウミネコが並走して見送ってくれる。
小さくなる駒ケ岳を見送り、船室へと戻った。大間港までは100分の短い船旅だ。ブーツを脱ぐのも面倒なので、カウンターでこれからのルートを確認しながら時間を潰した。

大間での天気も曇り。まだ降り出す気配はない。国道338号を陸奥湾沿いに南下する。このルートは初めてだ。福浦の町にちょっと有名な食堂がある。
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『ぬいどう食堂』がそれだ。
格安でウニ丼を食べさせてくれるというので、昼時は並ぶことも珍しくないらしい。自分も少し早目の昼飯を目指して、真っ先にこの店に向かった。さすがに11時半頃ではまだ並ぶほどではなかったが、席はすべて埋まっていた。やはりかなり人気の店らしい。残念なことに、ここでも『生ウニ』は切らしている、とのことだった。やはり台風の影響が後を引いたようだ。またしても宿題が残ってしまったような気がしたが、こればかりは仕方がない。イクラ・アワビ・塩ウニの載った『歌舞伎丼』を注文。コリコリした歯ごたえのアワビが美味い。そうそう来やすい場所ではないが、次はウニ一色の丼にありつけることを期待しよう。

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下北半島の西側のハイライトといえば、やはり『仏ヶ浦』だろう。
海にそびえる巨岩・奇岩が連続する風景を、一度生で見ておきたかった。駐車場から海沿いまで降りていけるらしい。しかし、ここから下まではかなり高低差がある。カメラ片手に身軽な格好で歩き出した。最初の下り坂から結構な斜度だったが、そのあとの九十九折れの階段がしびれる。「帰りはこれを上るのか…」そう考えただけで少し気持ちが折れかけた。今年は随分と歩いて観光している自分だ。
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潮の引いた海際を歩き、そびえたつ岩を見上げる。
長い年月をかけて隆起・浸食されたのだろうが、それにしても自然の造り出したオブジェに圧倒されていた。ここでしか見られない景色だ。やはり来てよかったと思う。
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エメラルドグリーンの浅瀬のそこここに、山ほどウニが転がっているのが惜しい。
これだけあればどれだけ立派なウニ丼が…と考えをめぐらす自分は、こんなスケールの自然に触れているにもかかわらず、まだまだ俗っぽさが抜けないようだ。そして予想通り、大汗をかきながら駐車場へと戻った。

ひたすら続く九十九折れのワインディングを、脇ノ沢方面に向けて国道を走る。大湊へ向かうのであれば、佐井村からかわうち湖を経る県道を通ったほうが早いのだろうが、ここはなるべく半島の形をトレースしておきたかった。ショートカットは次回でよいのだ。国道338号は通称『海峡ライン』と呼ばれるが、この辺りは完全な山岳路だ。脇ノ沢市街へと落ちていくように下ると、ようやく海際を走るルートになった。
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陸奥湾から吹き寄せる横風で、波飛沫が岩で砕けて飛んでくる。
今にも降り出しそうな空模様と相まって、本当に今日中に家まで帰れるのかと、一瞬不安がよぎる。

大湊から、下北半島の首の部分を横断する。横流峠へ至る道路は、先ほどまでのむつ市内よりも遥かにきれいで整備されていた。そう、この辺りは東通村原発交付金による整備事業の一環なのだろう。太平洋に近付いたところで、国道は南へと進路を変える。左手には物々しいフェンスがどこまでも続く。これが『東通原発』だ。国道が少し丘を登ると、ようやく太平洋が姿を見せた。道路はそのまま六ヶ所村へと続く。今度は右手の丘の上に、無数の風力発電のプロペラが見えてくる。そこから左に視線を移すと、これまた緑の中に白地に青や緑のパステルカラーで彩られた建物が現れる。これが六ヶ所村の『原子燃料サイクル施設』だ。この先で大きな沼を渡るが、河口には『むつ小川原港』という港がある。確かこの港も原子力関連施設と結びつきがあったはずだ。3年前に六ヶ所村のPRセンターを訪れた際に、そのような記述があったと記憶している。どんよりとした空の下、何やら禍々しいものを感じながら先を急ぐ。

基地で有名な三沢市を経て、有名な観光地である『奥入瀬』から遠く離れた『おいらせ町』を過ぎると、ようやく八戸市に至る。仏ヶ浦からここまでノンストップだったので、さすがに疲れがきていた。ガソリンも無くなりかけていたので、給油とあわせて少し休憩をとることにした。それにしても寒い。いつ降り出してもおかしくないほどだが、時間もすでに17時に近く、気温自体も随分と下がっていた。たまらずコンビニに入り、ホットコーヒーとあんまんで暖を取る。昔のレース仲間に、今は八戸で家業を継いでいる友人がいるのだが、残念ながら連絡が取れずに、今回会うことはかなわなかった。となれば、ここからは高速で先を急ごう。家まではまだ800km近く残っていた。
防寒を兼ねて、レインウェアに身を固める。百石道路の下田百石ICからそのまま八戸道に乗り継ぐ。3年前にも同じルートで、高速に乗ったのは17時を過ぎていた。それで深夜1時半頃に帰宅できていたのだから、今回も同じようなポイントで休憩すればよい。そう考えると、まずは菅生まで走ってしまおう。

一戸ICを過ぎると、やはり雨が落ちてきた。安代ジャンクションから東北道に合流すると、少し交通量が増えた。盛岡IC手前で渋滞になりかけたが、それほどペースダウンせずにクリアできたのはラッキーだ。3年前はパニアケースではなく、振り分けバッグだった。パニア装着時の車幅は1m。可能な限り、『すり抜け』は避けておきたい。仙台の手前で雨は止み、菅生PAで夕食を兼ねて休憩をとる。ここまでは予定通りだ。前回と同じ『牛タン定食』を食べたかったのだが、牛タンのコーナーだけ長蛇の列ができていた。さすがにそれで時間を喰うのはもったいないので、今回はラーメンでしのいだ。『白河の関』を越えると、ようやく少し暖かくなってきた。その代りに、那須のあたりまで渋滞にはまることになる。お盆休みの最後の土曜日、こればかりは仕方のないところだ。ここまでが順調だったのが奇跡なくらいだ。それでも完全に流れが止まることはなく、少しずつ先へと進んでいった。

宇都宮でまた雨。今度は本降りだ。渋滞を抜けていることと、寒くなくなったことで気分的には随分と楽だった。佐野SAで一度休憩をはさみ、最後の休憩を東北道最後の蓮田SAでとった。残るは首都高速のみ。ブラックコーヒーで再度気合いを入れ直す。GS-AのメインスイッチをONにし、セルボタンに触れた。「キュルッ、キュルッ、キュル、、、」エンジンが掛からない!ここにきて、バッテリー上がりとは…。確かに少し弱りかけている兆候はあったが、まさか最後の休憩場所で終わらなくてもよいではないか。すでに日付が変わる時間になっていた。このまま、ここで朝を迎える気などない。

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蓮田がSAだったのが幸いだ。ガソリンスタンドにGS-Aを押していき、事情を話して充電器を借りた。
30分ほど充電したところで、再度エンジン始動を試みた。一瞬掛かったものの、すぐにエンジンスール。どうやらアイドリングの回転数では、発電容量が足りていないようだ。次に車からバッテリー直結でエンジンを始動させる。一度掛かってしまえば、回転さえ落とさなければ大丈夫そうだ。スタンドの店員にスロットルを煽ってもらっている間に、慌てて身支度を整えた。何としても自走で家まで辿り着きたいという気持ちが先行してしまい、焦っていたのだ。申し訳ない気持ちはあったが、お礼もそこそこに蓮田を後にした。
走ってさえいれば、早々アイドリング回転数まで落ちることはないだろう。ETCを装着している事に、こんな理由で救われるとは。とはいえ油断は禁物。湾岸線を杉田で降りてしまうと、家まではかなり信号が多い。ここは横浜横須賀道路に乗り継ぎ、朝比奈ICで降りるルートを選ぶ。そうすれば、信号はたった2つ。少しでもリスクは回避せねばならない。

『這う這うの体』とは正にこのことだ。何とか家まで帰り着いたのは、夜中の3時を過ぎていた。メインスイッチをOFFにし、再度エンジン始動を試みても、もうエンジンは掛かってはくれなかった。本当にギリギリのところで帰宅できた、ということだろう。安堵で全身から力が抜けた。荷を解くのは、朝になってからにしよう。
厳密に出発日から数えると、9泊10日のロングツーリング。結婚以来、ツーリングでこれほど長い間家を空けたのは初めてだ。旅の充足感と裏腹に、少し家族に対して申し訳ない気持ちもあった。それでも、快く送り出してくれた家族に感謝しよう。

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洞爺湖・望羊蹄の店主、そこに手伝いに来ていた横浜のバイク仲間、ガソリンを分けてくれた恵庭のエンデューロライダー、日高で待っていてくれた編集長、美深で合流したバタくんとその友人、蓮田で助けてくれたガソリンスタンドの店員…。『絆』というにはあまりに刹那だが、間違いなくそこには『縁』があった。道と景色と、そして人との出会いがある。だから旅は止められないのだ。
そして、こんなにも楽しく素晴らしい体験を、自分だけのものにしておくのはもったいない。願わくば、次は息子と一緒に…。(終)

【本日の走行距離:959km】
【ツーリング全行程:4,096km】