内田輪店

モーターサイクル、特にオフロードバイクが大好物です。 趣味と物欲にまみれた日々を、若干反省しながら綴っていきます。(苦笑)

2014北海道ツーリング【6】

◆8月13日(水)
カーテンから射し込む、眩しいほどの朝の光で目を覚ます。どうやら夜半に雨が降っていたらしい。バイクを濡らす雨粒が、キラキラと光っている。糠平からそのまま国道を南下しても良いのだが、まだ時間が早いので一つ峠を越えて行こう。
温泉街を見下ろすスキー場に沿って、急激に標高を上げていく。
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木洩れ日が射し込む濡れた路面を進み、幌鹿峠を越える。開けた下り斜面を滑るように降りてくると、そこが然別湖だ。湖畔に温泉街があるので秘境っぽさは無いが、まだ時間が早いこともあってひっそりと静まり返っていた。やはり北海道の湖には、静寂が似合う。

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今日最初の目的地は、東大雪湖にある『十勝ダム』。そのために一度鹿追の街まで出てから、『コの字』を描くように山の中へと戻っていく。道道716号に突き当って右折。すると、道端に小さな看板が見えた。『トムラウシ』の文字だ。この先にある『ヌプントムラウシ温泉』は、林道の先にある、正に秘湯らしい。自分は残念ながら行ったことが無かった。行ってみたい衝動に激しく駆られてはいたが、昨日の三股・置戸林道で少々懲りていたこと、そして、昨晩雨が降っており、路面がぬかるんでいた場合にこのタイヤでは心許ないために、今回も断念せざるを得なかった。やはり北海道、何度来ても回り尽くすことなど出来やしない。

朝早くからの来訪者にも関わらず、こころよくカードを分けてくれた十勝ダムを経とうとした時、iPhoneの電源が落ちているのに気が付いた。まさかのバッテリー切れだ。さっきまでナビ代わりに使用していたはずなのに。GS-Aのバッテリーから取り出しているUSBのアウトプットから常に電源を供給していたのだが、コネクタを差し込んでも通電しない。もしや、振動による断線では?と疑ったところでもちろん予備など持ち合わせてはいない。となれば、以前のように地図を頼りに進んで行くまでだ。

キャンプ道具を満載した子連れのタンデムツーリングにおいて、いちいち停まって地図を確認したのでは不安定だし、子供も疲れてしまう。そう考えて、最近はナビゲーションを使用することも多かった。しかし、やはり全てをデバイスに頼るのはいざという時に困ってしまう。やはり地図には地図の利便性があるというものだ。分岐で停まって道を確認しながら進む。以前なら当たり前の行為だが、やはりこれがしっくりくる。分岐で停まると、風切音が止みアイドリングの鼓動だけが聞こえる。看板や目印を頼りに行く先を確認する。そんな普通のことがやはり楽しい。折角なので、今日はナビに頼らないで走ろうと決めた。

この時期、帯広市内は祭りの真っ最中だ。過去に2回、そのための交通規制に出くわした事があった。そのために、今回は十勝清水で国道38号を横切り、帯広市内を迂回して芽室を経て中札内へと向かった。日高山脈の奥深く、『とかちリュータン湖』にある『札内川ダム』を目指す。中札内の街から25km。名称は『静内中札内線』となってはいるが、2003年に工事中止の決定がなされたらしい。この道も湖の先で行き止まりになっているはずだ。ならば、と終点を確かめに行くことにする。湖に沿っていくつものトンネルを抜ける。開通して15年近く経過しているであろうはずなのに、その先へ続く道はとてもきれいで、舗装も新しさを残しているほど。トンネル内部も煤けた様子は一切なく、真新しいままだ。

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開けた先にゲートが現れた。ここで行き止まりだ。この道はこれから先どうなるのか。公共事業の名の下に道路を造り、それを諦めて放置する。もちろん、工事の難しさもあるだろうし、出来たところでどれだけの人が利用するのかも見込めない。しかし、それは予見できなかったのか。必要な道路はダムまでで良かったはずだ。自分には、いたずらに自然を破壊しただけで終わっているように思えてならなかった。
恐らくはauの電波なんて届かないであろう。こういうところではdocomoしか使えないんだろうな…と思わせるほどの山奥に札内川ダムはあった。
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本当に湖面を渡る風の音しかしない。湖の規模はかなりのものだけに山奥にひっそりと感じではないが、それがかえって不気味なほどだ。
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ダムから少し下ったところにある『ピョウタンの滝』に立ち寄ってみた。
台風の影響か、濁った川の水量はかなりのものだ。落差はそれほどないものの、かなりの迫力だ。水音が両側の山に反射して響き渡っている。

そういえば、朝から何も食べていなかった。時間は11時に近付いていた。そろそろ昼飯にしよう。
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大樹の町にある『味の龍月』という食堂に向かう。ここは『牛とろ丼』が有名らしい。
元々『牛とろ丼』は、十勝地方の名物だ。以前、十勝清水のドライブインでも食べたことがあった。新鮮な牛肉をフレーク状にし、温かいご飯の上に載せたもので、ご飯の熱と口の中の温度で牛肉がとけていくような不思議な食感を味わうことができる。醤油ベースのたれは店ごとの特色が出ているようで、『味の龍月』では上に半熟の目玉焼きが載ることで、さらにマイルドな味わいとなる。ボリューム的にも満足できた。おススメである。

店を出ると、目の前にショッピングモールがあった。携帯電話ショップも入っているらしいので、不調となったライトニングケーブルを診てもらうことにした。結果はやはり断線らしい。痛い出費だが、やむを得ずケーブルを購入。
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ナビとして使わずとも、走りながら充電できるのは非常に助かるのだ。

快晴の空の下、このまま南下していく。海沿いまで下りてきているので、さすがに気温は高い。とはいっても、30度に届いていないところは、さすがに北海道といったところか。湿度も少なく、走ってさえいればメッシュジャケットを風が抜けていくので快適だ。広尾から先は完全に海沿いの道となる。国道336号、通称『黄金道路』。海に接するところまで断崖が迫っており、そこを掘り抜くのは正に「黄金を敷き詰める」ほどの莫大な費用を要した難工事だったらしい。

信号のほとんどないこの道は、時計回りに走るのが正解だ。左側が海となるため、レーダーによる取り締まりは警戒しなくて済む。前を走る地元ナンバーの車が、かなり良いペースで引っ張ってくれていた。躊躇なく前走車を抜き去っていく走りには強引さも危うさもなく、ついつい一緒になって飛ばしてしまっていた。襟裳岬へ向かう道道の交差点でウインカーをつけると、パワーウインドーが下がり、ドライバーが右手を挙げてくれた。こちらもホーンを返す。一期一会というやつだ。

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両側に熊笹が生い茂る道を、先端に向けて南に走る。最後の坂を上りきると、そこが『襟裳岬』だ。
23年前の夏。大学のモーターサイクル部の仲間たちと、バイクで北海道を訪れた。初めての北海道ツーリングに、自分たちはとにかく走り回りたい欲求に駆られて、西に東に、南へ北へと毎日走りまくった。観光らしい観光なんて、ほとんどした記憶はない。それでもいくつか目的地は決めていた。その一つが『岬めぐり』。ライダーの本能に忠実に、分かりやすい突端を目指したのだ。その中でも道内最南端『襟裳岬』の記憶は今でも残っている。そう、何も見えなかったのだ。重く立ち込める濃霧によって。しかも、8月のお盆過ぎとは思えないほどの気温に、セパレートの皮ツナギを着ていた自分でさえも寒さに震えていた。今ほど整備されていなかった岬には、だだっ広い駐車場しかなく、土産物屋が1つ2つあるのみ。展望台までは行ってみたものの、ほとんど景色は望めず、その日の宿である『えりも岬ユースホステル』(※ここも、名物ユースだったなぁ)に逃げるように移動したのをはっきりと覚えている。その日のユースの広間では、ストーブの火が灯っていたっけ。

年の1/3は霧に包まれるといわれる『襟裳岬』だが、この日ばかりは素晴らしい天気に恵まれた。こうなると、展望台だけで引き返すのはもったいない。
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整備されたアップダウンのある遊歩道を10分ほど歩いて、岬の突端まで行った。海は蒼く、崖の上から見下ろすと吸い込まれそうだ。遠くに本州が霞んで見える。最高の眺めだ。ウミネコの鳴き声に聞き入りながら、しばらくボーっとしていた。

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気が付けば、太陽は随分と傾いていた。
今日の宿はまだ決めていない。どこまで行こうか。岬を後に走り出す。最初の丘を越えて、左にカーブを切ると、金色に輝く海へと続くダウンヒルになった。
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眩しさと息をのむほどの美しさに、思わず再びバイクを停める。本当にこの場所は、『飽きる』ということをさせてくれない。

JR日高本線に沿って走る国道235号は、利尻と並ぶ銘品である『日高昆布』の産地だ。知人への土産をもとめて、三石にある昆布屋に立ち寄った。店に入ると、何ともいい香りに包まれる。昆布とはこんなにも香しいものなのか。素直に感動を伝えると、店主の老婦人が「よかったら味見してみて」と『昆布ソフトクリーム』をご馳走してくれた。
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ほのかに甘塩っぱいソフトクリームに、大胆に昆布が突き刺さっている。ソフトクリーム自体も美味かったが、トッピングの昆布が本当に美味い。飲み込むのが惜しいほどに、口の中で柔らかくなるまで弄んだ。

太平洋から吹き付ける潮混じりの横風で、シールドが汚れて視界が悪い。今日はそろそろこの辺で宿を探そう。静内で国道から少し外れて、『森林公園キャンプ場』に泊まることにした。すぐ近くに静内温泉があるのが決め手だ。
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テントを張って、まずは温泉へ行く。昨年出来たばかりの公営の温泉施設は、非常に清潔で気持ちがよい。そして泉質がまた最高だ。茶褐色の湯はぬるぬると身体を包んでくれる。今回の旅で浸かった温泉の中では、断然ベストだ。この温泉に浸かるためだけに、再訪しても良いと思えるほど。温度も熱すぎず、ゆっくりと堪能した。

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テントへ戻り、先ほど国道沿いのスーパーで買った食材を広げる。
やはり北海道のキャンプは、ジンギスカンが『気分』だ。味付け肉のたれを調味料代わりに、たっぷりのもやしと一緒に煮込むように炒める。あまりの美味さにご飯が足りなくなりそうだ。もちろんビールはサッポロクラシックで決まり。

鈴虫の鳴くキャンプ場はすでに秋の気配だ。空を見上げると、満天の星空に流れ星が走る。今夜はペルセウス座流星群の極大日だった。どこまでも北海道の景色に魅了されながら、最高の夜は更けていく。

【本日の走行距離:391km】