内田輪店

モーターサイクル、特にオフロードバイクが大好物です。 趣味と物欲にまみれた日々を、若干反省しながら綴っていきます。(苦笑)

2014北海道ツーリング【5-2】

まだ日が暮れるまでには時間があった。管理所が閉まる時間を過ぎているため、今日のダム巡りはここで終了。とはいえ、明日巡るダムに少しでも近付いておきたい。そう考えると、糠平か士幌あたりまでは南下したいところだ。普通に考えれば、県道まで7~8km戻る事になる。そこから南下し、足寄方面に向かえば良い。ただ、地図を眺めているうちに何となくそんな気分になれず、代わりにちょっとしたチャレンジ精神みたいなものが芽生えてきた。おけと湖の西側から林道が国道まで伸びていた。国道273号の三国峠の南側、糠平方面を目指す自分には最高の合流ポイントだ。地図の情報によれば、『フラットダート24km』とある。この重量級のGS-Aの足下は、およそダート向きとは思えないタイヤ。しかもフルパニアのオマケ付きだ。さて、どうするか。もう答えは決まっていた。「行こう」。

湖に沿って、林道を目指す。
ツーリングマップルの通り、スパッと舗装路が消えてダートが始まった。常呂川本流林道だ。砂利メインのダートだ、これは助かった。土系のダートで、しかも濡れていたとしたら、このタイヤでは恐らく厳しかったであろう。序盤は緩やかな上りである事も手伝って、順調なペースで林道を進んでいく。しかし、進んでいくにつれて、水が流れて掘れたクレバスのような轍が現れ始めた。アドベンチャーバイクとは言え、フロントに太めの19インチタイヤを履くGS-Aは、こういう縦溝に弱い。轍を斜めに横切るためには、それなりの角度を付けてアプローチする必要があるからだ。中途半端に侵入しようものなら、轍にフロントタイヤを取られ、大きく振られることになる。そうなると転倒の危険性が大きく増すからだ。自分の足下はライディングブーツで固めているが、オフロードブーツの安心感には及ばない。もちろんプロテクターの類いも付けてはいない。更には、このフルパニアだ。万が一にも転倒しようものなら、路面状況によっては一人で起こせないかもしれない…。不安要素は尽きないが、立ち止まってもいられない。陽は着実に傾き始めている。ここまで来たら、やるしかない。自分の25年間のオフロードキャリアを信じて、慎重にバイクを進めていく。なるべく先に視線を送り、進むべきラインを見定めていく。ようやく路面に慣れて来た…頃が一番危ないのだろう、緩やかな下りに進入したところに狙っていたラインが想像以上に泥濘んでいた。咄嗟にブレーキを掛けて凍り付いた。「ABSを解除していない!」

舗装路であればギリギリまでコントロールを可能にするABSは、ダートでは時には危険なデバイスと化す。タイヤがロックしない、ということは、ABSが作動している間は減速もしないということだ。GS-Aは路肩に向かってまっしぐら。万事休すか、と諦めかけたところで、辛うじて踏みとどまりオンコースに復帰。命拾いをした。

一度エンジンを切って、深呼吸。心拍数が落ち着いたところで、改めてABSをカットし、再度慎重にGS-Aを走らせていく。突然、視界と道幅が広がった。
『勝北峠』だ。
恐らくは『十勝』と『北見』の境なのだろう、北海道の峠名は意味合いが分かりやすい。ここからは、三股・置戸林道になる。下り斜面に入るが、路面がフラットになったこともあり、とても走りやすくなった。
蛇行する川に掛かる橋を幾度も渡り、ようやく国道273号へ合流。
この時ばかりは本当にホッとした。距離にして、本当に24km近くあったことになる。久しぶりにこの規模の林道を走り抜き、安堵感と同時に達成感を覚えていた。

ほとんど車のいない国道をしばらく南下すると、路肩に看板が現れる。『タウシュベツ橋梁』、ここにあったのか!思わずバイクを止めた。旧国鉄士幌線で利用されたタウシュベツ橋梁は、糠平湖の水位によってその姿を大きく変える。秋から冬に掛けては、完全に水没してしまうこともあり、今では『幻の橋』とも呼ばれている。元々、鉄道旅をしていた自分にとしては、噂に聞くこの橋を実際にこの目で見てみたかった。思い掛けず、その機会を得たとなれば、これは寄らずにいられないではないか。バイクを降りて、展望台に向けて歩き出す。以前は糠平三股林道を経て、直接橋まで到達する事が出来たのだが、今では事前に森林管理署の許可を得てゲートを開ける事が必要となったようだ。今回さすがにそれは無理だが、展望台が設けられているのだ。整備された小道を歩く事数分、木々の間から何度も写真で見慣れた景色が見えて来た。

この時期にしては、奇跡的に湖の水量が少ないようだ。橋がほぼ完全に露出していた。望遠レンズを持って来なかったことが、これほど悔やまれるシチュエーションも無い。間近に橋を見る事が出来なかったものの、それでも実際に目にする事が出来、感激していた。

今日はよく走った。そして様々な出来事、素晴らしい景色にたくさん出会う事が出来た。
既に陽は落ちており、テントを張る気分でも無い。それほどに疲れていたのだと思う。『ぬかびら源泉郷』まで辿り着いたところで、どこか宿に転がり込もうと決めた。
幸い、温泉街の入り口に、バイクが多数停めてある宿がある。
早速聞いてみると、部屋は空いているとのこと。期せずして温泉に浸かれる喜びもあり、ここ『湯元館』にお世話になることにした。一人にはあまりに広すぎる二間続きの部屋に通されたが、結局はこじんまりと布団を敷き、それから温泉でゆっくりと緊張をほぐす。充実した一日ではあったが、本当に疲れていた。早々に22時頃には布団に潜り込み、深い眠りに落ちた。

【本日の走行距離:462km】