内田輪店

モーターサイクル、特にオフロードバイクが大好物です。 趣味と物欲にまみれた日々を、若干反省しながら綴っていきます。(苦笑)

2015北海道ツーリング【10・終】

◆8月15日(土)

起床時間は5時半。今日は道内最後の日だ。
10時半出港のフェリーに乗るために、乗船受付のために9時までには小樽に着いておかなければならない。
昨夜から降り始めた雨はとりあえず止んでいたが、洞爺湖に浮かぶ中島は靄にかすんでその輪郭さえ曖昧だ。
小樽への道程は、どうしてもニセコの山裾を巡ることになる。
はたして、天気はどこまでもってくれるだろうか。

雨上がりの早朝は寒く、さすがに中に一枚着込んで走り出す。
路面はフルウェット。荷物満載のタンデムだけに、無理は禁物だ。ペースは抑え目に行こう。
温泉街のメインストリートは、まだ静かに眠っている。
『望羊蹄』に再訪を誓い、洞爺湖を後にした。

喜茂別の街の手前で、いよいよ雨が降ってきた。
これくらいなら、と高を括っていたのだが、程なくして本降りになった。
多少なりとも感傷的になっているからなのだろうか、止まってカッパを着る気分にはなれなかった。
幸か不幸か、リアシートの娘はすっかり寝ている、このまま突っ走ってしまおう。
メッシュジャケットを通り抜けた雨がとても冷たい。膝下もすっかり濡れてしまっている。
しかし、走り続けている分には、娘はあまり濡れずに済むのだ。
グリップヒーターの電源をONにして、雨が止むまで走り続けようと思った。

国道276号倶知安まで辿り着くと、ここでようやく雨が上がる。
一昨年はここから国道393号で峠を越え、赤井川を経由して山側から小樽入りしたのだが、また降られてはたまらない。
少し遠回りになるが、ここは山間を走る国道5号が正解だろう。
交通量の多い一桁国道だけに、しばらくすると路面は完全に乾いていた。
国富のトンネルを抜けて仁木まで来ると、青空が広がっていた。もう雨の心配はないだろう。

インカムの無線越しに、娘が「お腹空いた」と告げてくる。本当に呑気なものだ。
雨が降ってきたことには途中で気付いたらしいが、それほどでもないのでまた寝たとのこと。まあ、濡れていないのなら良しとしよう。
ここまでの晴れ間で、自分の服も少し乾いてきたようだ。仁木の市街まで来たところで、お決まりのセイコーマートで朝食をとる。
時計はまだ8時になったばかり。雨の中を止まらず走り抜けたことで、予定通りに進んでいる。目指す小樽まではもう少しだ。

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フェリーターミナル手前のセイコーマートで最後の買い物を済ませ、8時45分に小樽港に到着。
驚いたことに、すでにバイクの積み込みが始まっているではないか。聞けば、ピーク日で満車らしく、少しでも早く積んでおきたいとのこと。
バイクの積み込みが終わらないと、車輛甲板に車をすべて積み込むことができないからであろう。
乗船受付を済ませると、ここでタンデムの娘は歩いて乗船となる。
一昨年はまだ小学生で初めてのフェリー乗船ということもあり、娘も自分も船内でちゃんと会えるかとても不安だった。
今年はもう中学生であるし、しかも一度経験済みだ。前回よりは多少安心してお互い別れたが、それでも親としてはこのシステムには若干不満を覚えずにはいられない。
もちろん、ボーディングブリッジや車輛甲板における転倒や、甲板内での事故などのリスク回避のためなのだろうが、こちらとしてみれば『余計なお世話』以外の何物でもない。
ちなみに、乗用車の同乗者においても乗船時は徒歩での乗船となるが、下船時は全員車に乗って降りることができる。
このあたりも不公平感が否めない部分だ。それでなくとも、下船時はバイクが最後に降りるため、タンデムライダーは結構待たされることになるのだから。

閑話休題。愚痴を言い始めたら、どうにも切りが無い。
今年はサプライズで、2名個室を予約しておいた。
エクストラのコストについては少々痛いものがあるが、安心してゆっくり過ごせる事を娘も喜んでくれた。
年頃でもあるし気遣う部分も多いのだが、こんな自分に付き合ってくれるだけでもありがたいことだ。気分屋で扱いづらい時もあるが、根は優しい。

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10時30分。
晴れ渡った小樽の街に迫り出すように、天狗山がくっきりと見える。
新日本海フェリー『ゆうかり』は、定刻通りに小樽港フェリーターミナルを出港した。
20歳の時、最初に小樽からフェリーに乗って以来、何度経験してもこの瞬間だけは切ないものがこみ上げてくるのを抑えることができない。
しかし、旅の終わりは、次なる旅に向けて助走の始まりだ。また来年、ここに戻ってこられますように。

一昨年はバタくんと3人でこのフェリーに乗った。
今日のランチは、その時に食べそびれた『船上ジンギスカン』といこう。今年は無事にありつくことができた。
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娘にとっては今回の旅で初めてのジンギスカン
よくある冷凍肉を薄くスライスしたものだが、それでもやはり美味しかったようで自分の分の肉まで奪っていった。
カミさんが少々苦手なラム肉だが、自分と娘は大好物だ。さて、息子はどういう反応を示すのか。早いうちに体験させてみたいものだ。

満足して部屋へと戻る。
早起きだったこともあり、いつしか娘は隣のベッドで寝息を立てていた。
気兼ねなく過ごせるのが個室の良いところだ。たまには悪くないな、と思う。

夕食時のレストランは非常に混雑する。
自分ひとりであれば、カップラーメンにビールでもあれば十分といったところだが、娘がいればそうもいかない。
少し早めに足を運んだことで、開店直後の1回転目で上手く入ることができた。
懐石風の予約メニューもあるが、好きなものだけをチョイスするバイキングスタイルのほうが娘の好みだ。
トレーに載せてきた量に驚かされたが、それを笑顔で平らげていた。

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食後、夕涼みがてら甲板に出る。
ちょうど奥尻海峡を抜けて、進行方向右手に大島が見える。雲の切れ間から差し込む夕日が、海をきらきらと照らしていた。

長距離フェリーなので、、当然のように大浴場が用意されている。
夕焼けに光る海を眺めながら、湯船に浸かるのはこの便ならではの魅力だろう。
荒れているときは窓の外を海面が激しく上下するほどに揺れることもあるが、今日はベタ凪ぎともいうべき好天だ。
オレンジ色の海を、船はゆっくりと滑るように進む。いつまで見ていても飽きることがない。

やるべきことを全て終え、暇を持て余してしまうと、ついついビールのプルタブを開けてしまう。
フェリーの中だけは、まだ半分北海道だ。何故なら、売店で『サッポロクラシック』が売っている。これは嬉しい。
娘と部屋でまったりと過ごしながら、それぞれにお菓子やらつまみをやらを肴に、ジュースとビールが空いていく。まあ、フェリーの夜なんてこんなものだ。
明朝の新潟港入港予定は6時。今朝に続いて、明日も早起きだ。
3本目のビールが空いたところで、二人揃って眠りについた。

スマートフォンのアラームに加えて、畳み掛けるような館内放送でようやく目を覚ます。
カーテンを開けると、窓の外はすっかり夜が明けていた。
天気は晴れ。何とかこのまま家までもってほしいところだ。

予定通り6時に着岸したフェリーは、大量に飲み込んだ乗用車から先に下りていく。
車輛甲板の壁に沿って整然と並べられたバイクは、車がある内は向きを換えることすら出来ないからだ。
着岸してから30分あまりのタイムラグ、これが焦れる。
ようやく館内放送の指示があり、待ちくたびれたライダー達は車輛甲板へと急ぎ足だ。
娘をフェリーターミナルの待合室に迎えに行くことにして、自分もGS-Aのもとへと向かった。

ここから家までは350kmくらい。この程度なら途中での給油は不要だ。
一昨日、洞爺湖で入れたガソリンで、十分に家まで帰ることができる。
北海道の空気を一緒に連れて帰るようで、少しばかり愉快である。

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娘を乗せて、そろそろと走り出す。
新潟西ICから北陸道へ。まずは、すぐの所にある黒崎PAで朝食を済ませてしまおう。
実は、午後から塾の模擬試験があるそうで、12時までに娘を家まで連れて帰らなければならなかった。
間に合うはずと踏んではいるが、タンデムならなおのこと無理など出来るはずもない。
コーヒーで目を覚ましたら、再び気を入れて走り出す。

長岡JCT.から関越道へ入ると、しばらくは新潟平野を信濃川に沿って走る。
タンデムベルトで自分と繋いだ娘は、すでに夢の中だ。「羨ましいヤツだな」と一人ごちた。
スピードを上げて先を急ぐよりも、淡々と走り続けて距離を稼いだほうが結局は早い。
頼れる愛機を信じて、ひたすら走り続けた。

上越国境の長いトンネルを抜け、谷川岳を滑るように駆け下りていく。
高崎を過ぎたところで、藤岡JCT.を先頭に少しだけ渋滞が発生していたが、まだ9時前だけにそれほどでもない。
ここまで来てしまえば、あとは一気だ。
鶴ヶ島JCT.から圏央道を乗り継ぎ、海老名から東名高速横浜町田ICへ。
いつもなら保土ヶ谷バイパスを新桜ヶ丘ICで下りるのだが、今日はフル積載なのでそのまま高速で帰ることにする。
掛け値無しに、350km弱をタンデムノンストップで帰り着く。これこそがGS-Aの真骨頂だ。

狩場の料金所を抜けてしまえば、あとは横浜横須賀道路を残すのみだ。
北海道への未練を断ち切るように、後ろ髪を引かれながらもひたすらここまで走ってきた、つもりだった。
しかし…本当はそれだけじゃない。
恐らくは、これが娘と出かける最後のロングツーリングになるからだ。

娘は今、中学2年。
受験を控えて、来年の夏に自分と遊んでいる暇などない。
かといって、高校に入ってしまえば、父親と二人で旅に出かける、などということも無くなるだろう。

誤解を恐れずに言えば、『娘』とは父親にとって特別な想いを抱く存在である。
2歳からバイクの後ろに乗せ、6年前からは二人であちらこちらへと出かけてきたのだ。
後ろ髪を引かれないはずなど無いではないか。

娘と自分だけの特別な時間は、これでお終いかな…。
そう考えると、右手から少しだけ力が緩む。
『朝比奈ICまで、あと1km』
今日だけは、この案内表示が恨めしく思えてならなかった。

【8/15~16の走行距離:511.3km、全走行距離:2,867.3km】
(終)