内田輪店

モーターサイクル、特にオフロードバイクが大好物です。 趣味と物欲にまみれた日々を、若干反省しながら綴っていきます。(苦笑)

一つの作品として

昔から「試乗」するのが大好きだ。

これはバイクに限らず、クルマも同じ。
新型車には、新しい魅力と技術が詰まってる。その片鱗を感じたければ、やはり乗るしかない。
一番最近試乗したクルマは、SUBARUの「LEVORG」。ハイパワーな2.0Lターボではなく、新開発レギュラーガソリン仕様の1.6Lターボを選んだのは、やはり前述の理由からだ。
結果から言えば、十分すぎるほど速かったし、乗り心地の良い素敵なクルマだった。これで実走燃費で約12km/Lは走るというから、技術の進歩は素晴らしい。

家の近所にある大手バイク量販店の店頭に、ずっと気になっている一台の試乗車があった。
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スズキ渾身の新開発アドベンチャーツアラーだ。

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前に突き出した「クチバシ」は、同社の名車「DR-BIG」へのオマージュとのこと。
この「DR-BIG」を駆る友人が、近くに二人もいたこともあり、自分の中でも非常に印象深いバイクであった。

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その名車の現代版とも言える「V-Strom1000 ABS」となれば、やはり気になるもの。
そんな彼曰く、「出たら、絶対に自分で買う!」とのこと。
開発者がそこまで惚れてるのだから、きっと魅力のあるバイクなんだろう、と。

そして、改めて店頭でまじまじと観察。
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この特徴的な顔立ち。他社のどのバイクにも似ていない、個性的なデザインである。

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真横から見たフロントカウル。
「DR-BIG」ほどに突き出してはいないが、リブやダクトが成形されているところをみると、きちんと空力に寄与する機能部品であろうか。

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このシルバーの部分は、アルミ製。しっとりとした質感を醸し出している。

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フロントはコンベンショナルな倒立フォークに、ABSを組合わせたラジアルマウントキャリパーをセット。
現代的な安心のコンポーネントである。
ちなみに、ホイールサイズはF19・R17インチであるのは自分のR1200GS-Aと一緒。軽量化とコスト優先でのキャストホイール採用であろうが、アドベンチャーツアラーを名乗るからにはオプションでも良いのでスポークホイールを選べるようにもしてほしかったところだ。
パリダカ世代のビッグオフ好きである自分としては、ここの部分はイメージにコダワってほしかったところ。

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エンジンは、スズキ伝統のTL・DLから続く、DOHC8バルブの水冷Vツインユニット。
グランドヒットを嫌ったのであろう、前後気筒から出るエキパイを繋ぐバイパスパイプのプレスっぷりがスゴい。

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多機能メーターは、正直多機能すぎて自分では理解出来ていない。
まぁ、あくまでも試乗なので、使いこなす必要は皆無。
一点気になるのは、タコメーター下のアクセサリーソケットの位置。完全に目の前なので、差し込むアクセサリーによってはちょっと目障りになるかも。これはどちらかにオフセットさせてほしかったところだ。

さて、観察はこの辺までにして、とにかく乗ってみる。
跨がった状態で車体を起こすと、ビックリするほど軽い!いや、あくまでも自分のGS-Aとの比較ではあるのだが、それでも衝撃的な軽さだ。
足付きに付いても、アドベンチャーツアラーとしては格段に良い。両足の爪先がしっかりと接地し、さらにここまで軽ければ立ちゴケの心配もかなり少ないだろうと思われる。

エンジンを掛けると、良く消音されてはいるが、聞き慣れたTLエンジンの音がする。シフトをローに入れ、クラッチをミートして走り出す。この時の低回転時のトルクは十分。コロコロコロ…という転がるような軽やかなエンジン音にのって、ジェントルに車速をあげていく。スロットルを大きく開ければ瞬時にタコメーターの針を振り上げるポテンシャルは持っているのだろうが、ゆっくり走ることを許容している点ではアドベンチャーツアラーのエンジンユニットとしては大合格だと思う。

ライディングポジションはスリムの一言。特に膝周りのスリムさは、1000ccのアドベンチャーツアラーであることを忘れさせるほど。ハンドルは幅・高さともに、身長174cmの自分にとっても大柄過ぎることもなく、自然なもの。ただ一点、足付きを考慮したシートが低過ぎる気がした。シートの一番深いところにはまり込むようなイメージだ。膝の曲がりが少々キツイのと、着座位置の自由度がもう少しあれば長距離もより一層楽なものになるはずだ。オプションでハイシートが用意されていたようなので、ここは自分の好みにあわせてしっかりと選びたいところだ。

アスファルトの継ぎ目やマンホールの段差などは、ほとんど気にならない。ここは倒立フォークとリンク式リアショックがとても良い仕事をしていると感じた。本当に乗り心地が良い。自分のGS-Aにも、このくらいしなやかで上質なサスペンションが欲しいと思うほどだ。本当に良く出来ていて、今回の試乗で一番気に入った点。

コーナーでの倒し込みは、エンジン型式の違いからGS-Aより若干重心の高さを感じる。ロール軸の位置が高い。ゴロンというよりは、少しだけヨッコラショという感じ。でも、それほどクセがあるわけでもなく、慣れてしまえば問題ないレベル。

15分程度の試乗で全てが分かるはずも無いけれど、「とてもモダンなツアラー」だと言う印象だった。エンジンだけ、車体だけが突出したような印象はなく、非常にバランスの良い「ツアラー」だということ。しかし、そこに「アドベンチャー」が感じられるかというと、自分の印象としては正直微妙だ。どこでも行ける、どこまでも行けるという元来「ビッグオフ」と呼ばれるジャンルの車輛に備わっていた一つの特殊能力的なイメージは、このバイクには似つかわしくないのかもしれない。誤解を恐れずに言えば、「このバイクに、ブロックタイヤを履かせるイメージが想像出来ない」とでも言えば良いだろうか。

逆に言えば、GSにはここまでの「アーバン」な印象は似合わない。どうかするとスーツを着て通勤することさえ似合ってしまいそうな「V-Strom」というバイクは、ここ数年ブームのように様々なメーカーからリリースされて来た「アドベンチャーツアラー」的バイクとは一線を画す。つまりは、他社が「GSのライバル」と銘打って出して来たアプローチとは全く異なり、「これはスズキのオリジナル」というこのメーカーらしさ溢れるバイクだと思う。

何だかちょっと偉そうになってしまったけれど、最後に書きたかったのはこれなんだよね。

「持山君、こんなの作れるなんて凄いな!ついに一花咲かせたね。おめでとう!」

乗っていて感心するやら嬉しいやら。そんな気持ちでバイクに乗るのは、自分にとって初めてのことだったんだ。