◆9月15日(土)DAY 1(中編)
スタートしてすぐ、右手に広がる“日高国際スキー場”のメインバーンを使用した最初のテスト『ゲレンデCT』が待ち構えます。
朝イチにも関わらず、いきなり全開にしなければならないため、テストの手前で止まってしばし念入りに暖気運転。
ラジエターがほんのり温まるまでは、全開走行なんてしたくないですもんね。
同じ組でスタートした鈴木さんがCTに向かったので、自分も15秒ほど間を空けてスタート地点に入ります。
カウントダウン。「5、4、3、2、1…」
スタッフの「頑張ってー!」という言葉とともに、フラッグが振り下ろされました。
すかさず自分もスロットル全開!…といきたいところですが、テスト区間は『トランスポンダー』による自動計測となるため、実際の計測地点はスタートの少し先。
そのため、焦らず自分のタイミングで出て構わないんだそうで、自分も深呼吸してから落ち着いてクラッチミート。
だって、目の前に直角コーナーが控えてますからね。
気ばかり早って、いきなり転倒ってのもカッコ悪いかな、と。
グラストラックのグリップ具合を確かめながら、ペースを上げていきます。
すでに前のクラスが掘り返してくれているので、きちんとタイヤが仕事してくれている様子。
となれば、少しだけスイッチを入れて、愛機に鞭を入れます。
夢にまで見た、日高のスキー場での全開ヒルクライム。
たーのしー!
作業道を登り終えると、そこはほぼゲレンデの頂上付近。
そこからは一気に下っていきます。
すると、自分の前にスタートした鈴木さんが見えてきちゃったもんだから、もうテンションは上がる一方。
ここまで来たら、追い付きたい!
『MXライダー崩れ(笑)』のちょっとした意地みたいなもんです。
そして、「よっしゃ!」とニヤけた瞬間に、ぬかるんだワダチにタイヤを取られて敢え無くスリップダウン。
やはり「調子に乗ってはイケナイ」ということを痛感した次第です。反省。
しかし、まだテストは終わっていない!
慌てて起こして、すぐにリスタート。再び鈴木さんを追います。
ゴール手前で再度抜き返したところでテスト区間終了。
涼しい顔の鈴木さんに対し、自分のブーツは早くも泥まみれ。先が思いやられます。
スキー場を後にし、舗装路を山の中へと向かっていきます。
ダート区間に入り、しばし林道を走ると、ルートはさらに山の奥へと誘います。
竹藪を切り開いた道を進み、木の根が露出する坂を上り、丸太の横切る下りで肝を冷やす。
視界が開けたかと思うと、すぐさま森の中へ。
山肌をうねるように開拓されたルートを走りながら思いました。
「もしかして自分、ヤバいレースに来ちゃったん じゃ…」
冷静に考えれば、変化に富んだ『トレイルラン』ってことなんですが、そこに“時間”というファクターが加わると、それは一気にシビアになります。
TC1まで、あとどのくらいあるのか分からない…だから自分のペースが速いのか遅いのか判断できない…。
ミスがミスを呼び、何度も転倒し、結果“焦り”を生みます。
オンタイム制のエンデューロは『自分との戦い』とはよく言ったもので、“豆腐メンタル”な自分の弱さを早くも洗い出してくれちゃってます。
この時点で、このレースに出たことを少しばかり後悔…とまではいかずとも、手放しで「楽しい!」とばかりは思えない自分がいたことは間違いありません。
随分と走った頃、道幅の広い砂利の林道を下り始めました。
下った先にスタッフと思しき人影を見つけ、
「そろそろTC1かな?」
と胸を撫で下ろしたところ、スタッフから河原へと下るように誘導されます。
そして目の前に広がるのは、大きな石がゴロゴロと転がるルート…。
【撮影:Mako Ishii様、お借りいたします】
「あ、ここYoutubeで見たことある…」
なんてミーハーぶりをかましている場合じゃありません。ここが“ジュナイト”と呼ばれるガレ場のエリアです。
幅の広い河原のどこを走ってもいいらしく、前方至る所にバイクがスタックしています。
ここまでほとんど一人ぼっちで山の中を走っていた自分は、
「嗚呼、こんなにも仲間がいるじゃないか」
という変な安心感を抱き、若干テンションアップ。(何故?)
そして、TC1の名称は確か“ジュナイトTC”。
ということは、ここを抜けたらそこにTCがあるはず!
地元にそびえる“日本一のお山”にある『大沢崩れ』に比べれば少し石が小さいかな、と思い込み、確実にバイクを前へと進めます。
たまたま運良く、自分が選んだ左側のルートが“正解”だったようで、途中から非常に走りやすい道が出現。
そして、その先の橋のところには、TC前でタイムコントロールをするライダー達の中に、チームのみんなの姿が!
例えるなら、“ガンダム”の最終話、
に匹敵するものがあるといっても過言ではありません。(分かりますね?)
あれだけ焦りに焦っていた自分でしたが、時計を見るとTC1の通過指定時間まではあと15分ほど残っていたという…。
分かんないもんだなー、“オンタイム”って。
それでも、涼しい笑顔の鈴木さんから「お疲れー」の言葉をもらうと、「ああ、間に合って良かった」と一安心なのです。
指定の時間となり、TC1でタイムチェックを受けます。
ここには『日刊アフリカツイン』メンバーの“あとむちゃん”がスタッフとして駐在。
「なんだよ、間に合ったのかよっ」という憎まれ口も、今の自分にはどこ吹く風。
余裕で受け流してやりましたよ。(^o^)
再びバイクに跨り、鈴木さんと一緒にTC2へと先を急ぎます。
「こんな感じで、何とか最後まで行けたら良いなぁ」
とこの時は思っていたんですが、なかなかそうはいかないのがこの世の常。
まだまだアレコレやらかしますので、お楽しみに。(ToT)
コース終盤、視界の開ける丘の上に出ました。
どこまでも続く緑の丘。
これこそが一昨年の夏、早朝から日高MCのメンバーに連れてきてもらった場所、“町牧”というエリアです。
2年前、自分が「日高に出よう」と思い立った正にその場所に、自分は自分の愛機ととともにやって来たんだ…
それだけで、どこか胸が熱くなる思いを隠せませんでした。
…直後、林の中へと続くルートの下りでフロントタイヤを取られ、下まで滑り落ちたのは、少しばかり余計な思い出作りでしたが。
TC2は“クリーンセンターTC”。
ピットを兼ねていました。
というのも、今回のメインループは1周が121kmと超ロング。
この距離になると、バイクによっては最後まで無給油では走りきれない可能性があります。
自分のKTM250EXCも例外ではないのですが、我がチームはもう一つの給油ピット、スタートから65km地点にある“GAS2”に補給用のガスをデポしていました。
“GAS1”まではスタートから42kmと短いこともあり、ほぼ中間地点となる“GAS2”のほうが良いだろう、という判断です。
そのため、ここでも9分近くの時間を余らせ、ヘルメットを抜いでゆっくりとタイムコントロール。
ようやくこの“オンタイム”のルールが、少し分かってきた自分です。(今頃?)
TC3“西山TC”までは8分。完全に舗装路での移動となります。
そして、そのTC3の先が“西山ET”のスタート地点。
一般的な林道は、それこそ数えきれないほど走ってきたはずですが、タイムアタックとなるとそれはもう初体験。
転ぶとダメージがでかそうなので、慎重にスタートを切ります。
砂利の浮いたコーナーをいくつかクリアすると、目の前には長いストレートが出現。
緩やかなアップダウンに合わせるように、できる限りでスロットルオープン!
だんだんと走り方が分かってきたころ、スロットルを戻した瞬間にメーターを覗き込むと…
「きゅ、きゅうじゅっきろ!?」
自分でこれですから、上のクラスでは余裕で“3ケタ”は出ているはず。
怖―えー。(>_<)
やはり、転倒だけはしちゃいけないテストです。
良かった、その瞬間を目撃しなくて…。(^_^);
テスト後半に向けて、下り斜面に差し掛かります。
そして目の前に見えてきたのは河原…そう、西山名物“川渡り”のセクションです。
横切るだけでなく、川の中を走る区間もあり緊張を強いられますが、
【撮影:JNCC Official】
「水さえ無ければ、“爺ヶ岳”と一緒!」
と自分に言い聞かせて、常にスロットルはオン。
全閉にした瞬間に石に弾かれて転ぶ、というのは頭で理解しているので、ここは弱気になっちゃダメかな、と。
もちろん、自分なんかだと強気になり過ぎてもロクなことがありませんけどね。(^_^);
何とかミスなく最後までまとめて、無事ゴール。
ちょっとホッとしました。
ここからルートは、またしばらく川渡りを繰り返して先へ進みます。
一度だけ、川の中で止まったバイクをかわし切れず、右側へ転倒。
火照ったカラダに、日高の水が心地よい…
とか言ってる場合じゃありません。
最速かつ全力で、一気に車体を引き起こします。
幸いエアボックスカバーのある左側への転倒でなかったことと、サイレンサーからの水の侵入がなかったようで、すぐにエンジンが始動できたので安堵しました。
後で聞いた話では、今年は川の水量が例年より多い上に流れも速かったらしく、ウィメンズ“W”クラスのライダーは大半が川で転倒し水没。
中にはリカバリーに数時間を要し、DAY1を“タイムオーバー”で終えたライダーもいたのだとか。
自分がそうならずに済んだのは幸運だっただけなのかもしれませんが、今では結果オーライだと思っています。
TC4“舟水橋TC”までの持ち時間は40分。
ここは昨日下見してありましたが、転がりやすい流木が多いため、上のクラスの走行によりどのように表情を変えているかは、走ってみてのお楽しみ。
案の定、「飛べるかも」なんてスケベ心を出したセクションは、ことごとく手前が掘られて水を湛えたワダチが何本もできており、自分の心をポッキリ折るには十分すぎるほど。
はい、確実に行きましょう。
しかし、ここまでの石の多い河原の走行で、すでに軽い腕上がりを起こしていた自分は、テスト序盤のサンドの区間でハンドルを取られまくってフラフラ。
ここでも応援に駆け付けてくれたチームの仲間の声援を受けて、少しは攻めた走りを披露したいところですが、コーナーでリアを滑らせて転倒。
直後、今度は50cmくらいのコブを乗り越えた先で、ウッドチップにフロントを取られて再度転倒。
二度の転倒でヘロヘロになりながら、テストを終えました。ダサすぎます。
再び、河原を右往左往。
もう何度渡河したかなんて覚えてません。
ようやくTC4“舟水橋TC”に到着。
後半、あれだけヘロヘロな走りだったにもかかわらず、ここでも8分くらい残っているという不思議。
“オンタイム”って難しいなー。
(つづく)